#038
羽団扇のこと(1)

 

「讃岐国象頭山に鎮まりたまう神の紋には羽団扇をつけたものがあり、また、古くから伝わっている鞍馬山の僧正坊の絵は手に羽団扇を持った姿で描かれている。

 これは必ずや理由のあることに違いないと古書を漁ってはいろいろと考えていた。師はどうだ。羽団扇を持っておられるのか」

 寅吉が答えた。

「羽扇はつねに持っておられる。空行のときは、まずこの団扇で空を指し、目的を定めて飛び上がる。空から降りるときもこの団扇で地上を指し、目的を定めて下る。

 たとえていえば、羽団扇はくいのようなものだ。だが、空行のときは常にこれをくいのように使い続けるというわけではない。ただ、昇るときと下るときにのみ使う。

 下るときなど、指すところが一分も違えば下では四十里、五十里も違ってしまうので、とても気を遣う。高空から石を落とすと、寸分を違わず狙った場所に落とすのは難しいものだ。羽団扇を使う理由がわかるだろう」