#064
年月の経つのが短く感じられるのは長命の相であること(1)

 

 私は常日頃著述のため机に向かい、また、訪ねてくる人も多い。一日も一年もあっという間に過ぎてしまうと嘆いていると、寅吉がそれを聞きつけた。

「それは大変よいことで、長命の相だ。師は次のように仰っていた。

『私は二年をも常人が一日を送る間のように短く覚える。それは私の寿命が長いからだ。虫や鳥は命が短い。なかでもカゲロウなどは朝に生まれて夕に死すが、命が短いなどとは感じていない。これは短命が定められているからだ。命が長く、世に功を立てる人ほど年月を短く覚える。これは事が成就するしるしである。

 たとえば、五十歳で死ぬとしても、本人は気づかないが、四十位で死ぬべきところを生き延びているのだ。何に付けても世に功を立てるのが命を延ばす法である』」