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「そのほかに珍しい国に行ったことはないか」
寅吉が答えた。
「ほかにもいろいろな国に行ったが、見物するためではなく、ただ、師が用事を済ませるのに付いていったに過ぎない。そうした国に行っても大抵、人の住まない深山、あるいは海や川で用事を足されていたので、その国の様子までわからないことがほとんどであり、いま思えば夢でも見ていたのではないかと思われることが多い。
ただ、ひとつ珍しいと思った国があった。ここには十日くらい滞在できたので少しは覚えている。男女ともに顔は普通の人と変わりはないが、言語は何をいってるのかわからないもののキャンキャンという犬の声に似て、家ごとに犬を多く飼って日々の食料としている。
衣服には、生きた犬の腹を割いてその生皮をまるごと剥ぎ、そのまま四つ足の所に手足を入れ、腹の割いたところを縫い合わせて着たまま干す。国中の人がみなそんな有様だから、犬が立って歩いているように見える。白犬、赤犬などいろいろな種類が飼われており、赤犬の皮着物何枚、白犬の皮着物何枚などと、たくさん持っている者が財産家とされる。その首領にも犬を貢物とする。首領も犬の皮着物を着ている。
また、犬の大きさだが犬ではなく、馬のように見える動物を飼い、魚や鳥を捕らせる。
この国の人は海に入っても溺れて死ぬことはないが、生きながらに海中生物に変わってしまう。
いろいろな国を見たが、この国ほど汚らわしく思った国はない。だが、国の名前も知らないし、ここからどの方角にあるのかも知らないので、書き留めるのは勘弁していただきたい」
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