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二十七日に伴信友が来て、夜になるまで私とともに寅吉に話を聞いた。話は山で師匠が夜に読書する際に用いる道具の話に及んだ。山には月夜木という木があり、十五、六町(1町=約110メートル)も離れたところからも光って見えるという。これを細かく砕いてガラスを球形に吹いたものに入れて卓上に置くと、夜光の玉のように光るものだと寅吉が言いだし、いまそれを作って見せようという。
「そんな木は見たことも聞いたこともない。夏になってその木が生えてからにしたらどうだ」
と、止めてはみたが何事もいいだしたらきかない性格である。いまはとれないと納得したものの、
「山なら夏に限らずいつでもとれる。であれば下界でも探せばないことはないはずだ」
と、家に人が訪れるたびにその木の事を尋ねるのでわずらわしいことこのうえなかった。
さて、このことについて面白い出来事があった。
以来、十日間ほどはあまりに光木、光木とうるさいので、稲雄がからかって言った。
「お前は光木で夜光の器を作るというが、俺の体には神から与えられた夜に光るものが生まれながらに備わっているから、そんなものはいらないのだ」
「なんだ、それは?」
稲雄はわざと驚いた振りをした。
「ええっ、お前ほどの者が本当に知らないのか?」
「本当に知らない。いったい何のことだ?」
稲雄はすました顔でもったいぶって見せた。
「これはあまり人にいってはいけないことになっているのでなあ」
「なんだよ、教えろ、教えろ」
稲雄は居住まいを正して厳かに告げた。
「産霊の大神(※天地・万物を産み為す神霊)は、わが先生が日頃から教えてらっしゃるようにこの上なく尊い神である。この産霊の徳によって人は作られ、人体の上半身には眼をつけて昼の用を為さしめ、下半身には金玉をつけて夜の用を為さしめた。どうだ、いかにも尊い御技ではないか」
寅吉は笑い出した。
「あはは。金玉がなんで夜に役に立つんだ」
「では教えてやろう。たとえば暗いところで探しものをするときなどは、褌をかかげ、金玉を両手に握ってゆらゆらと振る。すると小さい火花のような光がきらめきわたるのだ。この光で周囲が見えるようになるというわけだよ。こんなことは誰でも知ってることだぞ」
「馬鹿にするな。嘘に決まってる。俺の金玉は一度たりとも光ったことなどないぞ」
稲雄はからからと笑った。
「お前、振ってみたことはあるのか?」
「……いや、一度もない」
「山人ともあろう方々がこんなことも教えなかったとは信じられん。もしかすると山人の金玉は光らんのかなあ?」
などと真顔で首を傾げて見せたので、寅吉はすっかり真に受けてしまった。
「そうかあ。夜になったら試してみよう」
その夜、寅吉は暗がりでしきりに金玉を振ったが、当然光るわけがない。腹を立てて稲雄に掴みかかった。
「神は嘘つきが大嫌いだぞ。よくも騙したな」
稲雄はなおもとぼけた。
「それはおかしい。人であれば夜に金玉が光って当然。お前の金玉だけ光らないというはずがない……。もしかすると、お前、毛はまだ生えてないのか?」
寅吉が「はっ」とした顔をした。
「毛が生えてなければ光らないのか?」
「金玉が光るといっても、その光は毛から発せられる。毛から発せられた光が互いに強めあって目に見える光となるのだ」
「ああ、それならわかる。俺の金玉にはまだ毛が生えてないから光らないんだ。そうとは気づかず嘘つきなどといってしまい悪かった。間違ってたよ」
その後は、毛の生えてくるのが待ち遠しくてならない様子である。
ばかばかしいようだが、よくいえば寅吉は何事も自分の目で確かめずにはいられない性格であり、物事の理屈を突き詰めて考える性癖のために欺かれたのである。じつはこれ以前にこんなことがあった。
人々が集まった席で、人の髪の毛が火花を発し、また、火気の強い人は衣服からも火花を発するものであること、黒猫の毛を暗闇でなでると火花を発するといった話題になったことがあった。寅吉はこういう話を耳にすると、必ず自分でも試そうとする。
我が家で飼っている猫が黒かったので、それを捕まえて薄暗いところに連れて行き、ごしごしなでると火花がぱちぱちと出たのを見てひどく喜んだ。猫がかわいそうだからやめろと止めるのもきかずに、昼間から雨戸を閉めたて、屏風を立てるなどして暗がりを作り、嫌がる猫を連れ込んではさんざんなでて遊んでいた。山人、天狗は体中から炎を発することなども考え合わせたために、こうも簡単に騙されてしまったのだろう。
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