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来客が帰った頃には、夜十時をすっかり過ぎていた。今日は多くの人の応対、また書き物なども多くしたので背中をさすってやりながら
「今日は疲れただろう」
と、労をねぎらうと、しがみついてきて
「みかんが欲しい」
という。
「いくつ欲しい?」
「尻に針のある虫の名くらい欲しい」
「ん? ああ、蜂か」
と、八個与えると大変喜んだ。ここから思いついたのか、
「手近なもので、なぞなぞを出してくれ。解いて見せよう」
と、いいだした。
家の者どもが思いつくままにいうのを寅吉はすぐさま解いてしまった。そのうちいくつかを次に示す。
燭台の蝋燭とかけて昼の十二時と解く 心はひが高い
広島やかんとかけて草津と解く 心は湯が出る
破れ障子とかけて憎い子の頭と解く 心は貼って(※張って)やりたい
砕けすり鉢とかけて小野小町と解く 心はすることができない
人魂とかけてかみなりと解く 心は光って怖い
土団子とかけて断食の行と解く 心は食いたくても食えない
狸のきんたまとかけて押さえた杯と解く 心はまた(※股)一杯
このような世俗的な才知もあったのである。
こうして、その夜、風呂を沸かしたから入れというとなぞなぞの方が面白いといって入ろうとしない。無理矢理入らせたが、ただいたずらばかりして体を洗わずに出てしまった。健雄が、
「カラスの行水とはこのことだ」
と、ふざけながら逃げまわる寅吉を捕まえてごしごし洗うのを見て、私が、
「山人の行水とかけて?」
と、なぞなぞを出すと
「月夜」
と、寅吉が解いた。
「その心は?」
「十五日には入る(※映える)」
詳しく聞くと、山では毎月の行をしているときは、日々湯を三回、水を三回かぶるが、身を清める行水は、一月に一度、十五日だけに行うという。
この夜に出したなぞなぞを書き付けて、翌十六日の朝、手紙に付けて屋代翁の元へ届けると、翁もまた、
「寅吉は意外に世知に通じておるわい」
と、大いに感心したらしい。この日、来合わせて問答したのは松村平作(私の門人になるために大阪から出てきた)、野山種麿、佐藤信淵などであった。寅吉の議論の巧みさにはみな舌を巻いていた。
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