[PR]今日のニュースは
「Infoseek モバイル」

#008
風砲の話その他

 

 さて、かねてから約束していた岩笛を寅吉に見せると、人工のものではないところと高音がきれいに鳴り響くのがひどく気に入ったらしく、大変喜んだ。吹き入れる息もよく入って、ほおっておくといつまでも吹いていた。

 この日はいろいろなことを尋ねたが、皆が驚かされたのは鉄砲のことだった。

「あちらにも鉄砲はあるのか?」

「鉄砲自体はふつうの鉄砲だが、見た目は少し違うし大きいものも小さいものもある。それに風をこめて打つ鉄砲もある」

 以前、国友から風砲(※空気銃か?)というものがあるという話を聞いて驚いていたのだが、これを聞いてさらに驚いた。皆で顔を見合わせていたのだが、なかでも国友は特に驚いていた。これがきっかけで私と国友は仙砲の話を聞くことになる。この話題については私より国友の方が詳しい。飲み込みが早いので微にいり細にいり尋ねることができ、次のような図まで描いてしまった(※省略)。私だけであればどんなに詳しく尋ねてもここまでの成果を挙げることはできなかっただろう。国友がこの場にいなければ仙砲の存在は世に伝わらないところだった。

 また、このとき試しに半紙などを出して字を書かせてみると、ただならぬ筆運びを見せたのでまた驚かされた。これが寅吉が大きな字を書いた最初である。これまでにも何かのついでに多少文字を書いたことはあったが、メモ用紙に走り書きした程度のことであり、しかも明らかに下手だったため誰も大字を美しく書けるとは思っていなかったのである。

「世間の文字はあまり知らない。山で習った字は世間の字と形が違う。みんな笑うと思っていままで書かなかった」

 とのことである。小さな字をわれわれのように書けないのは、山で字を習うときは手に砂をつまんで地面に砂を落としながら書く練習をしており、小字を書く方法は習っていないためだという。寅吉の書、またその運筆を見た屋代翁をはじめとする書に詳しい人々は誰もがその素晴らしさに驚いている。

 さて、あれこれと話は尽きなかったが、早くも戌の刻(※夜9時ごろ)となり美成は帰りを急ぐのでといって席を立った。あわててもう少しくらいと引き止めたが叶わなかった。寅吉に長笛を作らせて世に伝えたいと考えているので、ぜひ近いうちにまた訪ねてきてほしいと何度も念を押すと、わかりましたと言って二人は席を辞した。

 翌十二日に岩崎吉彦を使いに立てて昨日の礼を述べさせるとともに、貸すことを約束していた鉗狂人の書を持たせ、さらに笛を作る材料となる竹を買ってくるようにと言いつけた。きっと近いうちに寅吉を寄越してくれるようにとも伝えるよう言っておいたのだが、しばらくすると寅吉本人を連れて戻ってきた。

「いったいどうしたんだ」

「先生のおっしゃったとおりに用向きを伝えますと、美成の母が応対に現れまして『寅吉は世間で大変にもてはやされておりまして忙しく、今日も朝から美成とともによそへ出かけております』とのことでした。はあ、それは残念。それでは寅吉が笛を作る竹を買って帰るとしましょうというと、奥から『笛の竹を買うのであれば俺も一緒に行こう』と寅吉が走り出してきました。美成の母は大変困った様子でしたが、そのまま連れて帰ってまいりました」

「いつもお前は遠慮がなさ過ぎると叱っているが、今日ばかりは遠慮のなさが役に立ったなあ」

 そういって二人で笑った。

 例によって寅吉は挨拶もせずに、神前の岩笛を手にとって吹き鳴らし、

「これほど自然で面白いものはない」

 と、楽しそうにいつまでも吹いていた。笛に夢中で他人の声も耳に入らない様子なので、お菓子など与え、私も一緒にいろいろな遊びをしたりなどして岩笛がどのようにしてできたのか、石剣のこと、矢の根石(※石の矢尻?)のこと、石を作る方法、石を接着する方法、月に穴があるという話、星は気が凝集してできたものだという話、空行の詳しい話、人魂の行方、鳥獣の成り行きなどの話を聞いた。この日、昼前に我家を訪れたのは、五十嵐対馬と竹内健雄の母君などであった。